メタボリズム・グループ

今はなきエクスポタワー

1960年、日本で初めて開催された“世界デザイン会議”を契機に、評論家川添登菊竹清訓黒川紀章大高正人、槙文彦といった当時の若手建築家達によって結成。

“metabolism=新陳代謝”という定義からもわかるように、都市・建物の新陳代謝をテーマに数々の未来都市や建造物を提案した。


「都市・建物は新陳代謝を通して成長する有機体でなくてはならない」


それは建造物の永久不変を否定し、端的に言うとまず建物の構造を骨格部分(階段、廊下など)と可変部分(部屋、トイレなど)に明確に分けた。時代の変化に伴い起こりうる建物への新たな要求や老朽化などの問題を可変部分を取り替える事によって対応し、生き物のように成長し続けることができる事を建築要素をデザインの念頭に置く、日本初の国際的な建築・デザイン運動だった。

黒川紀章設計による「中銀カプセルタワー」、「ソニータワー」や菊竹清訓の「ホテルソフィテル東京」などが主なメタボリスト建築として知られ、それらは彼らの思想を具現化したものであった。
また大阪万博での菊竹清訓による、127メートルにも及ぶ「エキスポタワー」は、岡本太郎の「太陽の塔」と向かい合うように建設され、万博におけるメタボリズムの象徴であった。

メタボリズムが、当時若手の彼らにとって師匠格であった丹下健三にも影響を与えたということは「静岡新聞静岡放送東京支社」で顕著に窺うことができる。


ひたすら未来都市の理想を掲げるメタボリスト達だったが、実生活においては当時の生活水準からすると最低レベルのものだったという。彼らは現実に建てられる建築よりも、実現の当てもない実験的な計画にひたすら取り組んでいたという。
 ソニータワー(1976年竣工)

メタボリスト達は「海上都市」、「塔状都市」、「新宿ターミナル再開発計画」などの都市計画を提案するも、そのほとんどがアンビルトに終わっている。

そしてメタボリズムの存在は1960年代の終焉と共に次第に影を潜めてゆく。
皮肉にも彼らの思想は“行き過ぎた技術至上主義”と読み替えられ、都市ストックを否定するスクラップアンドビルトの志向だとされてしまったという。


現在にも残る“メタボリスト建築”の数々が、主要目的である“新陳代謝”を施される事はなく、代表作である「中銀カプセルタワー」が保存・取り壊しを巡って議論され、「ソニータワー」にいたってはすでに解体が決定しているという。

建物の“新陳代謝”の実現は難しく、結局“保存か解体か”となってしまうのが現実であろうか。
“日経アーキテクチュア”が述べていたように、現代は“メタボリズム受難の時代”なのだろうか。


大阪万博のシンボルでもあった「エキスポタワー」は老朽化と入場者数の減少から1990年に閉鎖。“原始”を含意した「太陽の塔」の永久保存が決定し大規模な修復作業が行われたのとは対照的に、“未来”がテーマだった「エキスポタワー」は1993年に解体が決定し、完全撤去された現在、その姿を見ることはできない。
それはメタボリズムの完全なる終焉を告げていたのかもしれない。
                  中銀カプセルタワー(1972年竣工) 



戦後の高度経済成長も落ち着きを見せ始めた1960年代、様々な都市計画の実現の可能性を秘めていた日本の成長期に丹下健三を追討するかのように独自の思想を掲げて登場したメタボリスト達。
もしかしたら彼らの思想自体が夢であったのかもしれません。
独創的過ぎる彼らの観念は世間からは受け入れ難く、実現したとしても様々な方面からの批判に曝されたと言います。
しかし影響力という観点からは紛れもなく強いものがあり、イギリスの建築家グループ、“アーキグラム”もその存在を認知していたそうです。
その存在自体がまさに賛否両論であったことには違いありません。

建物を見る限りでは確かに都市景観を乱していると言われても仕方のない、あまりに個性的すぎる外観を持っているメタボリスト建築。
しかし批判に曝される事を恐れず、自身の生活を犠牲にしてまで自我を通し戦い続ける、“強さ”を持っていたメタボリスト達は純粋に魅力的です。
利便性や快適性は抜きにして、何故、“真の建築物”であり世界的評価も高い、数少ないメタボリスト建築が解体の危機に曝されているのか自体、僕にとっては理解に苦しむものです。
“街の景観を乱している”とも言われているメタボリスト建築ですが、それらを解体し、“モダニズム”や“ブルータリズム”への中途半端な理解だけで、そこらの建築士たちによって設計された目先の利益しか考えていない流行りの“コンクリート打ち放し”建築や“デザイナーズマンション”が占領する、ただ単に“統一感”という美しさだけを求めた都市ほど味気のない、無機質なものはないと思います。

イギリスのニュースサイトが世界約100カ国の一万人を対象に行った「中銀カプセルタワー」の保存・解体についての調査では、95%が“保存”を支持したそうです。

それほど世界的に認知されている建造物の保存、もしくは“新陳代謝”を通しての成長を心から願うばかりです。